ちょいと備忘録

株式会社ワイキューブ代表取締役 安田佳生さんのメールマガジン
『ことばの砥石』2010.05.25号より
コラム「まだそこにない、ニーズ」
 お客さんの意見に耳を傾けること、
それはもちろん大事なことではあるのだけれども、
それだけではお客さんに寄り添っているとは言えない。
なぜならば、お客さん自身が
自分のことを100%知っているわけではないからだ。
自分でも自分のことが分からない、
いや、自分のことであるから余計に分からなくなる。
人間にとって最大の関心ごとは自分のことなのだろうけれど、
それはもっとも身近な永遠の謎であるともいえる。
自分が本当は何がしたいのか、
どうなりたいのか、どんなものを欲しているのか、
それを明確に答えられる人がいったい何人いるだろう。
もしかしたら一人もいないのかもしれない。
さらに、人は無意識のうちに自分の欲求を押さえ込んだりもする。
心の欲するままに生きていこうとすれば、
たくさんの人に迷惑をかけたり、
取り返しのつかない失敗をしたり、
時には自分自身を深く傷つけたりもする。
だから欲求はある程度抑えなくてはならない。
だが、そうやって押さえ込んでいるうちに、
本当の自分の欲求が分からなくなってしまうのだ。

 世の中に溢れかえる商品やサービスは、
すべて誰かのニーズに合うように作られている。
誰一人として欲していないものは、売りようが無いからだ。
だが、ここでひとつ問題がある。
顧客は自分のニーズを自分でも理解していないということだ。
つまり、顧客に欲しいものを聞いて作ったからといって、
その商品が売れるとは限らないし、
顧客がまったく求めていなかったものでも、
作ってしまえば売れたりもする。
それは、顧客が自分でも意識していなかった心のニーズ、
潜在的なニーズに合致するからだ。では
その潜在的なニーズに合わせてビジネスを行うことは可能だろうか。
実はこれは、かなり難しい。
顧客がまだ欲しいと思っていないもので、
顧客の“欲しい”を作り出さないといけないからだ。
世の中の大半のビジネスは、顧客が現在
欲しいと考えているものを提供することで成り立っている。
だがその顕在的なニーズに対して
過剰な商品が投入されるとどうなるか。
需要と供給のバランスが崩れ、価格が下落する。
つまり、現在の日本市場である。
 顕在化されているマーケットでは、
もはやビジネスは成り立たない。
厳しい現実ではあるが受け止めるしかない。
今、私たちに求められているのは想像力なのだ。
顧客の言葉に耳を傾けるのではなく、顧客の心に耳を傾ける。
そうすると、見えてくるはずだ。未来のニーズが。
もはや“欲しいものはない時代”だといわれている。
だったら、欲しいものをつくればいいではないか。
人間の潜在欲求がどのくらいあるのか想像もつかないが、
その欲求の中ですでに顕在化されているものなど、
たかが知れている。
まだそこにないニーズは無限にあるはずだ。
ただし、それが物であるとは限らない。
所有から使用へ、物から事へと、人の心は変化しつつある。
顕在化されるべきニーズは“安さ・早さ・便利さ”などとは
まったく違う種類のものかもしれない。
感性のニーズとでもいうべきものか。
それを捉えることが出来るのは、やはり私たちの心でしかない。